暴露を伴わない強迫症の治療

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強迫症の治療をしていて、繰り返し思うことは、暴露のハードルの高さです。特に引きこもりの状態にある場合は、まず暴露が難しい場合が多いのです。また、今の時代、どこにいてもインターネットで情報を得ることができます。そうなると、強迫症の当事者も「暴露」という言葉を知っていることがほとんどです。そうするととても暴露のハードルが高まります。今回は曝露以外の治療、特に情報収集による治療について考えていきます。

強迫症の症状:「疑惑」

強迫症の症状の一つは、「疑惑」です。例えば、「本当に、鍵を閉めたのだろうか?」「自分は、本当は犯罪者なんだろうか?」「自分は、性同一性障害なんだろうか?」などのように強迫観念は、疑惑に満ちています。

そして、疑惑が解消されず、答えが永遠にはっきりしない状態が苦しくて、強迫行為をしてしまいます。

曝露を通した治療では、この疑惑に馴れるという方法を行いますが、疑惑が解消するという方向性でよくなることもあります。

典型的な例は、「性同一性障害」に関する強迫観念です。性同一性障害に関する強迫観念の場合、「自分は性同一性障害なのではないか?」という強迫観念に悩みます。

そこで、性同一性障害の人の手記やブログを読んでもらうという方法を取ります。そうして、自分の体験や経験との違いについて考えてもらいます。実際に、性同一性障害の人と交流することも良いでしょう。

そうすると、自分と本当の性同一性障害の人との違いが浮き彫りになり、「自分は性同一性障害ではない」という確信が生まれます。違う表現をすると、「疑惑」が晴れるのです。

このようにして、強迫観念が和らぐ人が一定数います。

このようなパターンは他にも病気に対する恐怖、加害に対する恐怖などいくつかのパターンに応用できます。

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投稿者:矢野宏之 投稿日時:

周産期と強迫症

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今回は周産期の強迫症(Perinatal OCD)について解説します。

周産期と強迫症

Blakey & Abramowitz(2017)によれば、妊娠中の強迫症の発症率は最大39%であり、出産後の強迫症の発症率は最大で30%になります。また、強迫症の患者の29%が出産後に症状が悪化することが報告されています。このように周産期における強迫症は非常に大きな問題になります。

周産期の強迫症の特徴

妊娠中の強迫症は発症が緩やかであり、産後の強迫症は発症が急速であると言われています。症状としては洗浄強迫、確認強迫など様々な症状が出現します。特に子供を綺麗にしたい、害を与えたくないという強迫観念が多いように思います。

また、周産期の強迫症では産後うつ病と症状の重症度が関係してきます。一方で、産後精神病とはあまり関連がないようです。 強迫症を持ち気持ちが落ち込みながらも強迫行為をしてしまうという悪循環があります。

周産期の強迫症の原因

セロトニン仮説では、妊娠・出産によるセロトニン・システムの調整困難が強迫症の発症の引き金になるのではないかと仮説を立てています。しかし、この仮説は、議論の余地があるようです。他にもオキシトシンと呼ばれるホルモンの影響ではないかとも言われています。

周産期の強迫症の治療

薬物療法としてのSSRI、認知行動療法が周産期の強迫症にも用いられます。ただし、周産期ということで、認知行動療法が好まれることが多いように感じます。周産期という特殊な事情はありますが、通常の強迫症への認知行動療法と同じ手法が用いられます。

治療を考える

まず、周産期に入る前にある程度、認知行動療法を進めておいた方がよいと感じます。強迫症はどうしても、幼少期から発症しており、なかなか認知行動療法等の治療法にたどり着いていない方もいらっしゃいます。

妊娠中は、妊娠の経過が安定していると認知行動療法を行うことができますが、あまり積極的な曝露などは避けたい所です。そのため、妊娠前にある程度の状態にまで強迫症を治療していることが望ましいように感じます。

出産後であると、しばらくは子育てとの両立になってきます。初産だと子育てそのものに様々な不安が伴い状況はなかなか大変です。ワンオペ育児状態など、一人で子供と向き合っていると心細いということもあります。さらに、この不安をあおってしまうような情報もいくつか出てきてしまいます。そのため、このような情報に対する対応も必要になってきます。

まず、子供さんのおしりふき用にウェット・ティッシュが大量に購入されるという状況が起こってしまいます。そのため、汚れたら掃除というサイクルが速く起こりがちになります。アルコール・スプレーなどの除菌グッズを使っている例もよくあります。

子供さんが動き出すと、よく物を口に入れる、汚れているものに触るなどの行為が出てくるため、子供の行動を制限してしまうということがよく起こります。子供が歩きだしてからも、なかなか外出ができない状態が続きます。

確認強迫では、子供に危害を加えないか心配していることもよく見られます。特に病原菌などの感染などから守ろうとして、洗浄・確認をしていることがあります。

そして、精神科受診・カウンセリング等の外出が非常に困難になってしまうという問題も起こってきます。子供を連れていかなければならなないので、落ち着いて治療が受けられないのです。

細かな治療の問題はありますが、子供はよく泣きますし、落ちているものを拾って口に入れますし、おもちゃをよだれでベトベトにしたり、ゴミ箱をひっくり返したり、おむつをしていてもおもらしをします。しかし、それでも成長していくものです。

できるところから、少し気を抜いて、子育てをしながら認知行動療法をやっていくことが大切だと日々思います。

参考文献

  • Blakey & Abramowitz 2017 Postpartum Obsessive‐Compulsive Disorder The Wiley Handbook of Obsessive Compulsive Disorders, Volume I, First Edition.

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投稿者:矢野宏之 投稿日時:

人間関係に関する強迫症

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今回は、非常に稀な人間関係に関する強迫症(Relationship OCD:ROCD)に関して紹介します。

人間関係に関する強迫症とは?

人間関係に関連する強迫観念を中心とした強迫観念に悩まされるのが人間関係に関する強迫症です。Danny Derby博士、Guy Doron博士が中心となり研究を進めています。彼らの主催するwebサイト ROCD.netより症例を引用したいと思います。

デイビッド(32歳の男性 )が私のオフィスに入り、自分の問題を話してくれた。「私は恋人と付き合って1年になるが、これが私にとって正しい関係かどうかを考えてしまう。私は街やFacebookで他の女性を見かけるのだが、その女性達といたほうが、もっと幸せになれるんじゃないかと考えてしまう。彼女たちといたほうがもっと愛を感じられるのだろうか?私は、友達にどう思うか尋ねてしまう。私は常に彼女たちに対する自分の気持を確認してしまう。私はパートナーを愛していると思っているが、何度も何度も確認しなければならない。

ジェーン(28歳の女性)は2年間の交際の中で、様々なことに気が取られてしまうと話す。「私はパートナーを愛しています。彼なしでは生きていけないことはわかっていますが、彼が正しい体型を持っていないと思うのを止めることはできません。私は彼を愛していると分かっています。そして、この考えが合理的でないことを知っています、彼はかっこいいのです。このような考えを持っている自分が嫌いです。見た目重要だと、それほど思っていないのですが、頭から離れません。この強迫観念がいつも私の頭の中に飛び込んでくるのです。これはもう手に負えません。この強迫観念のせいで、私は憂鬱になり、私たちの恋愛関係をむちゃくちゃになります。他の男性を見ると、他の男性に惹かれるので、このように彼と結婚することはできないと思います。なぜいつも彼の容姿を他の男性と比較しなければならないのでしょうか…」。

https://rocd.net/

この症例をみると、これが強迫症のように見えないかもしれません。しかし、この症例にあるように、「自分の考えはおかしい」という不合理感があります。自分の考え・価値観ではないのに、このような考えが浮かんでしまい、振り払えないというのが強迫症なのです。さらに言えば、目に見える強迫行為を行わない、想像型強迫症の一種になります。

強迫観念は?

Guy Doron博士らによれば、関係性に関するもと、パートナーの存在に関するものに分かれるようです。

関係性に関するものとしては、パートナーに対する感情、パートナーの自分に対する感情、そして関係性の正しさに関するものが中心です。

例えば、「この関係性は、私達にとって正しい関係性なのだろうか?」、「これは本当の愛なのだろうか?」、「私は正しいと感じているのだろうか?」「私のパートナーは本当に私を愛しているのだろうか?」というものです。

パートナーの存在に関する強迫観念としては次のようなものがあります。

パートナーの身体的特徴に関するもの:「私の彼女の鼻は大きすぎるのではないか?」、社会的性質:「彼は社交的ではない」、「彼女は人生で成功するために必要なものを持っていないん」、道徳性、知性、情緒的安定性:(例:「彼は感情的に安定していない」、「彼女は頭が悪い」)などです。

この2つの強迫観念は同時に発生することが多く、お互いに影響しやすいことも指摘されています。また、どちらかと言えば先にパートナーの欠点について気をとられることが多いようです。

またこれ以外にも神との関係についての強迫観念もあるようです。こちらは、想像型強迫症でもよくでてくる強迫観念です。

強迫行為は?

Guy Doron博士ら が指摘する強迫行為としては以下のものがあります

自分の感情、行動、思考について常に確認をしてしまう。例えば、「私は愛を感じているのだろうか?」「他のものを見ているんじゃないだろうか?」「私は彼女について批判的な考えを持っているんじゃないだろうか?」「私は何かを疑っているんじゃないだろうか?」と監視しているのです。

他人の人間関係と自分の人間関係を比較すること。例えば、恋愛映画、テレビのコメディーの登場人物などの他人と自分の人間関係を比較する

パートナーとの良い経験を思い出す

友人、家族、セラピスト、占い師、霊媒師に、自分自身の人間関係について相談をする

また、回避行動として、自分の望まない考えや疑いを引き起こすような状況を避けようとします。例えば、恋をしていると思っている友人、「完璧な」関係を持っている人などです。また、完璧な人間関係を持っている人、映画の登場人物のように強くて情熱的な愛を持っているロマンチックな映画を見ることを避けている場合もあります。

これは本当に強迫症なのか?

ここまで、読んでいただいても、このような疑問が浮かんでくるかもしれません。実際には、私もこのような疑問がずっとありました。ただ、実際にはこのようなご相談は多くあります。

実際にご相談で多い強迫観念は、「私は本当に恋人のことが好きなんだろうか?」「私は、知らない間に不倫をしているんじゃないだろうか?/そういうよこしまな考えを抱いてしまっているんじゃないか?」「私とAさんの関係は、本当に友達/恋人なのだろうか?」というのが圧倒的に多いです。

中には、他の強迫症の症状を持っている方も多いです。また、強迫行為として、パートナーや友人にこの疑惑を打ち消してもらうために、「私は好きだよと言う」「好きだと言わせる」「不倫はしていないと告白する」「私達の関係は友達だと言ってもらう」と言った強迫行為をしている方もいます。

また、再保証を求める行動として、彼/彼女との言動を話し、自分の本当の感情はなんだと思うか? 彼/彼女はどう思っていると思うか?などを質問していることもあります。

さらに非常に特徴的なのは、「自分でも、こんな考えにとらわれているのは変だ」という洞察がほとんどあります。これが、通常の恋愛・人間関係では考えられないことです。

まとめ

今回は、あまり知られていない人間関係に関する強迫症をご紹介しました。非常にマイナーで、あまり強迫症だと気づいていない方も多いかと思います。これを気に広まっていくといいなと思います

参考

https://www.intrusivethoughts.org/ocd-symptoms/rocd-relationship-ocd/

Guy Doron and Danny Derby 2014 The OCD Newsletter OCD fandation https://iocdf.org/expert-opinions/relationship-ocd/

Guy Doron and Danny Derby :https://rocd.net/

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投稿者:矢野宏之 投稿日時:

強迫症の治療で誤解されていること

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 強迫症の治療や対応でよく誤解されていることについて整理していきたいと思います。

「強迫行為を我慢する」は治療にならない

 強迫症の治療で最も多い間違いはこれです。手洗いを減らそうと我慢する、確認を減らそうと我慢するなどの強迫行為を我慢する行為は、治療にはなりません。

なぜなら、「強迫症は強迫行為を我慢することができない病気」だからです。病気の症状として最もできないことにチャレンジすることになるので、失敗する確率は非常に高いです。

この方法で強迫症状が改善するのは、ごくごく初期の強迫症か強迫症っぽい程度の人までです。それ以上の症状がある場合は、この対応方法はうまくいきません。

強迫症のほとんどの人が強迫行為を辞めたい、やりたくないと思っているのに、それが達成できないことからも、この対応がうまくいかない事がよくわかります。

強迫観念を紛らわす

強迫行為が我慢できないのであれば、次にする行動は、強迫観念を紛らわすということです。例えば、目の前のことに集中をしたり、頭の中ら追い出そうとしたり、考えないようにしようとしたり…とにかく頭の中から強迫観念を追い出そうとします。

しかし、残念ながらこの方法もうまくいきません。実際は、強迫観念を紛らわそう、消そうとするほど、強迫観念は浮かびやすくなります。このような性質を思考抑制と呼び、強迫症の悪循環のとても大きなものになります

強迫症の治療に有効な認知行動療法は暴露反応妨害法しかない

これもよくある誤解です。強迫症に有効な認知行動療法は、暴露反応妨害法以外にも行動実験というものがあります。行動実験は、心配していることが本当に起きるのかどうかを調べる方法です。暴露反応妨害法と組み合わせて行うこともできますが、暴露を伴わない行動実験というものもあります。上手に行動実験ができれば、それだけでも強迫行為が減ったりします。

また、行動実験以外にも色々な知識を増やすことで強迫症状が軽くなる事があります。この方法は、まだ学術論文等では、「こういう方法もうまくいくかもしれない」程度にしか書かれていませんが、実際には良くなることもあります。

なかなか暴露反応妨害法を使って馴れていくことができない場合は、こういった別の方法からはじめてみることもとても重要です。

暴露することは、絶対にできない

強迫症の隠れた症状に「回避」と呼ばれる症状があります。これは、自分が苦手なものを避けるという症状です。強迫症の治療を考えていく上では、この「回避」が実は最も大事な症状になります。

この「回避」があるために、『暴露は絶対にできない』と思い込んでいるのです。実際には、強迫行為を我慢し続けるよりも、暴露をした方が強迫症が克服できる可能性が高いのです。

暴露するときに強迫行為をすれば、治療は失敗する

暴露反応妨害法では、嫌なものに直面する暴露と強迫行為をしない反応妨害を両方する必要があります。これは正しいことです。しかし、「暴露中に強迫行為をしてしまったからといって、暴露の効果が無効になってしまうことはありません」

むしろ、「強迫行為をしてしまったので、暴露の効果はなくなってしまった」と考えていたほうが、暴露の効果はなくなる事が分かっています。

まとめ

今回は、強迫症の方でかなり誤解がある部分をまとめてみました。強迫行為・強迫観念を我慢することで悪化してしまう場合も実は結構あります。強迫症のことを正しく知って正しい対応を身に着けていくようにした方が、強迫症もよくなってきます。

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投稿者:矢野宏之 投稿日時:

強迫性緩慢とは?

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強迫性緩慢( Primary obsessional slowness)とは?

強迫性緩慢とは、 1974年にRachmanが報告した10症例に始まる強迫症の下位分類です。 典型的には、洗面、ひげそり、歯磨き、着替え、食事などの日常生活の動作にとても時間がかかります。

強迫症は症状が強くなると、日常生活の行動にとても時間がかかってしまいます。一方、Rackmanが報告した10症例は、行動の前後で、不安や不快感が減少しないことが特徴でした。強迫行為は、その行為の前後に不安や不快感の減少が特徴です。Rackmanは、彼らのとっている行動は強迫行為ではないと考え、「一次性強迫性緩慢(Primary Obsessional Slowness)」という名前をつけました。 一方、通常の強迫症が重症化した結果、日常生活の動作に時間がかかる場合を二次性の強迫性緩慢と呼び区別しました。

強迫性緩慢の症状とは?

強迫性緩慢の行動の様子は、具体的には次のようになります。

歯磨きを付ける前に歯ブラシをじっと眺める、歯磨き粉を決まった位置に決まった量を正確に出そうとする。そのため、歯磨き粉をつけるのに時間がかかる。チューブの蓋がしまったか何度も抑える。その後歯磨きを始めるが、同じ場所をゆっくりとした動作で何度も磨くなどのように生活の動作の一つ一つの速度が遅いのです。

このように正確な動作で、イメージ通りのことを行おうとするために行動が遅くなるのではないかと考えられています。このような綿密な行動が、洗面、行為、食事、歩行などの場面で出現します。一方で、この行動の遅さは、機能的にすばやく行動が取れないわけではない事が重要です。実際、強迫性緩慢の人は、すばやく行動ができることもあります。例えば、車の運転やゲームなどの刺激が絶えずある活動では普通の動作をすることがあります。

Rackmanは、通常の強迫症との違いについて次のように述べています。

確認強迫、洗浄強迫、強迫観念にみられるような認知的特徴の兆候は、ほとんどまたは全くありません。一般的な強迫症患者に比べて、強迫性緩慢の患者は、責任感を強く感じすぎることや、認知的なバイアスが持続的に起こっている証拠に乏しい。 強迫性緩慢の患者は、望まない侵入思考(強迫観念のこと)に悩んでいるとはめったに言わない。確認強迫患者では一般的な記憶の問題があるということも言わない。不安を訴えることもほとんどない。 不安を軽減または回避しようとして、綿密な行動をとっているとも言わない。

Obsessive-Compulsive Disorder: Theory, Research and Treatment. より

このRackmanが指摘する部分は非常に説得力がある部分だと思います。中尾(2007)においても、”強迫観念や不安の生起と、強迫行為によるその軽減という体験様式が明確ではなく、なぜ強迫行為を行うのかについても言語化した説明は得られにくい。”と述べられています。また、強迫性緩慢として報告される症例はセルフケアに関する行動について強迫行為が起こることも特徴です。

強迫性緩慢は強迫症なのか?

強迫性緩慢は、その症状の特殊性から強迫症の下位分類なのか、別の疾患なのか議論が行われています。 Veale(1993)は、これまでの症例報告などを調べ、強迫症とは分離できないと主張しています。彼の主張は次のようなものです。

第一に、一次性強迫性緩慢の症候は、強迫行為ないし回避行動の結果であると再分析できる。これまで報告された症例の症状は、無秩序、乱雑さ、不正確さなどからの回避であると見なせる。

第二に、通常の強迫性緩慢は複合的である。つまり、動作に時間がかかることは、正確性、綿密性とだけ関わっているのではない。患者が適応するための様々な方法と関係している。強迫的な緩慢さは、複数のことが相互作用を起こして生じている可能性がある。強迫的な緩慢さの要素の中身を特定することは非常に困難である

第三に、正確性や綿密さに関心があるにも関わらず、緩慢さが生じない患者が存在する。正確性と綿密さを排除するよりも、捉えられている強迫症の症候を中心に分類することがより論理的だ。

第四に、妥当性を持って強迫症内で症候群を分離するためには、脳病理学、神経心理学、症候学的下位分類を多変量解析で描き出す必要がある。これは、未だに行われていない。

Vale(1993) Classification and Treatment of Obsessional Slowness

Veale(1993) では、この後に強迫性緩慢の症例について検討し、強迫性パーソナリティ障害を持つ例が多いことを指摘し、強迫症に強迫性パーソナリティ障害が合併している可能性を指摘しています。

ただ、近年は強迫性パーソナリティ障害は独立した疾患として存在するというより、強迫症の症状の一側面として考えたほうがいいようにも思います。 Obsessive Compulsive Cognitions Working Group (1997) による研究では、強迫症に特有の認知ととして、不確定性への非耐性と完全主義が指摘されています。不確定性への非耐性は、曖昧なものを嫌い、具体的にする傾向です。正確に把握したいという強迫行為を生み出しやすいです。完全主義は、強迫行為を完璧に行いたくなる、完璧でない強迫行為は強迫行為にはならないという感覚です。この2つは、いわゆる強迫行為としては見えづらい症状です。これらが、強迫性パーソナリティ障害として見えていたのではないかとも思います。このあたりは、パーソナリティ障害の再編と共に議論されることになるでしょう。

強迫性緩慢は整理整頓強迫なのか?

強迫症は、fMRIなどの結果より、洗浄強迫、確認強迫、整理整頓強迫、想像型強迫の四因子に分かれることが知られています (Mataix-Cols et al., 2005; Rosario-Campos et al., 2006) 。このうち、整理整頓強迫は、 Coleset al. (2003) により,「びったりで はない感覚 (notjust right experiences; 以下, NJREs)」とい う言語を介さない強迫観念の報告によりさらに明確になってきました。言語を介さないということは、Rackmanが指摘する、認知的な特徴がないという主張と一致します。

ここで、大切なのは整理整頓強迫の強迫観念であるNJREsが分かってきたことがわりと最近であるということです。ちなみに2017年に出版された The Wiley Handbook of Obsessive Compulsive Disordersには強迫性緩慢の話題の論文が一本も載っていません。かなり細かい話題まで載っている強迫症の最新論文のまとめにも載っていないと考えるとかなり忘れ去られている概念だともいえます。また、2005年発行のThe OCD Workbook: Your Guide to Breaking Free from Obsessive-compulsive Disorderでは、強迫性緩慢とは「まさにぴったり感覚(just right feeling)」を過度に追求しているために行動が遅くなっていると明確に書かれています。この点からも、現在は整理整頓強迫の重症例と捉える傾向があるのでしょう。

Hymas(1991)は、17名の強迫症として治療をうけている強迫性緩慢患者の神経学的症候について調べています。そこでは、動作の流暢性がない、四肢運動の開始が遅い、発話および歩行の異常、歯車様強剛、複雑な反復運動およびチックなどの症状が指摘されています。ここで、あれっと思うのがわりとパーキンソン病の症状の記載があるということです。

また、 Ganosら(2015)では、強迫性緩慢と思われる三症例の報告と、過去の強迫性緩慢の症例報告を吟味した結果、 症例報告には洗浄・確認の症状が混在している点や、目に見えない強迫行為が認められる、DSM-5によるカタトニアの診断基準を満たしている症例がある、自閉スペクトラム症などの合併例があることから強迫性緩慢という疾患単位が存在するのか疑わしいと結論づけています。この主張は最もで、強迫性緩慢の症例報告が近年になってなくなったのは、しっかりとした鑑別診断や他の疾患概念が育ってきた影響なのかもしれません。

ここまでのまとめと感想

強迫性緩慢と言われた人は、確かに整理整頓強迫の重症例だと考えられる方が非常に多い印象があります。 Valeが指摘するように、正確、納得を求めるために非常に行動が遅くなるというのです。 強迫性緩慢と思われる方で、行動には時間がかかっているけれど、動作が緩慢なわけではなく反復行動が多いために時間がかかっている方も多いです(このような場合でも、しばしば強迫性緩慢と言う人もいます)。

整理整頓強迫で緩慢が目立たない場合でも、ふっと立ち止まったりすることがあります。これは、行動を起こす前に行動の計画をイメージし、そのイメージに納得できない場合にその計画をやり直すという場合です。その瞬間は、行動がとまります。これが、行動を振り返る場合は、メンタル・チェッキングという名前がありますが、行動を起こすとする場合に起こる強迫行為には名前がありません。

類似の概念は、VOCI(Vancouver Obsessional Compulsive Inventory)の評価尺度の中に優柔不断(Indecisiveness)さという因子があります。強迫症の完璧主義と回避が合わさると、最良の選択を選ぼうとして、行動が選択できない、選べないという症状が出てきます。

また、一方で整理整頓強迫では説明できない強迫性緩慢の症状もあるような気がしています。Rackmanが指摘するように、強迫行為がなんのために行われているのかが不明瞭であったり、強迫観念が不明瞭(just right feelingのことを伝えてもピンとこない)場合もあります。この特徴は、山上(1993)、Takeuchi(1997)でも指摘されています。

さらに、Rackman(1973)、中尾(2007)は、症状の浮き沈み(Fluctuation)がみられると指摘しています。これは、一時的に動作がスムーズになっても数日や数週間の感覚で動けなくなるという状態です。竹内(1993)の症例報告でも、似たようなうつ状態が指摘されています。ただ、このFluctuationは海外では指摘がほとんどされず、Veale(1993)の症例に「彼の強迫症状は何年にも渡って浮き沈みがあった」と書かれているのみです。ただ、臨床的にはこの浮き沈み(Fluctuation)は、実感があります。

また、神経内科的疾患の鑑別が必要だと思うのですが、経験的には神経所見がでない印象があります。

まとめると、強迫性緩慢と呼ばれる方たちの中には、整理整頓強迫や他の病気が主である場合も多いと考えられます。一方で、強迫性緩慢にしか生じない強迫観念・強迫行為の不明瞭さ、浮き沈みなどは今後も考えていく必要がありそうです。

強迫性緩慢の治療は?

まずは、大前提として、神経内科的疾患の鑑別が必須だと思われます。次には、整理整頓強迫としてとらえられないか考えてみる必要があるように思います。整理整頓強迫で考えられる場合は通常の暴露での治療が検討できます。

強迫性緩慢の治療は、まずは暴露できないか考えてみる必要があります。特に整理整頓強迫として考えられる場合は暴露が可能です。ただし、この場合、非常に難しい問題として立ちはだかるのが、洞察の不良さです。強迫性緩慢の多くの人は、自分が好きで行動を遅く取ります。そのため、暴露に対する抵抗感が強いのです。一旦、入院治療で治療を続けても、外来治療に戻ったらすぐに症状が再燃してしまうこともよくあります。そのため、治療を維持するための仕組みが必要だと思います。

強迫性緩慢に対して暴露反応妨害法が向こうと書いてある本もありますが、個人的にはそれは整理整頓強迫として考えられていなかった時代に書かれたものだからそう書いてあるのではないかと思います。本人がのるかどうかの問題はありますが、暴露は有効だと思います。次に述べる、プロンプティングやシェイピングも本人が納得がいかない方法をやり続けるという意味では、暴露になります。

一方で、「セルフケアのお手本」は必要です。お手本がないと、すぐに自分の納得の行く方法に戻ってしまいます。このお手本と時間のリマインドです。これを行っていくことでセルフケアにかかる時間を短縮させていきます。時間配分を考えるペーシング等の方法も必要です。また、声をかけられると動けることがあるため、声をかけたり、行動が止まらないように工夫をするプロンプティングも重要です。このように日常生活の行動を作り上げていく方法をシェイピングと書いてあるものもあります。

参考文献

  • Abramowitz, J. S., McKay, D. Storch, E.A.  2017 The Wiley Handbook of Obsessive Compulsive Disorders
  • Coles, M, E., Frost, R. O., Heimberg, R. G., Rheaume, J. 2003 .“Not just right experiences”: perfectionism, obsessive–compulsive features and general psychopathology. Behaviour Research and Therapy, 41, 681-700
  • Hymas, N. Lees, A. Bolton, D. et al . 1991 The neurology of obsessional slowness.Brain 114. 2203-2233
  • Mataix-Cols, D., Rosario-Campos, M.C., Leckman, J.F. 2005 . A multidimensional model of obsessive-compulsive disorder. American Journal of Psychiatry, 162(2), 228-38.
  • Obsessive Compulsive Cognitions Working Group 1997 Cognitive assessment of obsessive-compulsive disorder. Behaviour Research and Therapy, 35, 7, 667-681.
  • Rachnan, S. 1974 Primary obsessional slowness.Behav Res Ther 12:9-18
  • Rachman, S. 2003 Primary Obsessional Slowness. Obsessive-Compulsive Disorder: Theory, Research and Treatment. 181-194
  • Rosario-Campos, M.C., Miguel, E.C., Quatrano, S., Chacon, P., Ferrao, Y., Findley, D., Katsovich, L., Scahill, L., King, R.A., Woody, S.R., Tolin, D., Hollander, E., Kano, Y., Leckman, J.F. 2006 . Molecular Psychiatry 11(5), 495-504.
  • Veale D 1993 Classhication and treatment of obsessional slowness. Br J Psychiatry 162:198-203
  • 中尾 2007 強迫性緩慢 臨床精神医学 第36巻 第8号 1037-1039
  • Hyman, B. M., Pedrick, C. 2005 The OCD Workbook: Your Guide to Breaking Free from Obsessive-Compulsive Disorder
  • 竹内 1993 強迫性緩慢の臨床経過 日本行動療法学会大会発表論文集 (19), 56-57
  • Takeuchi, T; Nakagawa, A; Harai, H; et al 1997 BEHAVIOUR RESEARCH AND THERAPY Volume: 35 Issue: 5 Pages: 445-449
  • 山上敏子 米田光恵 団サダ子 富田裕子 亀野公子 1993 変形された抜毛癖(切毛癖)をもった一次性強迫性緩慢 行動療法研究 第9巻 第1号 34-44

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投稿者:矢野宏之 投稿日時:

強迫症とはなんなのか?

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強迫症とは、強迫観念と強迫行為の悪循環によって維持されている病気です。もう少し、説明するのであれば、「強迫行為が止められない病気」になります。

強迫観念と強迫行為とは?

強迫観念と強迫行為は、人によって違います。例えば、強迫観念の具体例としては…

  • 汚れたのではないか? / ○○が汚れている
  • 汚れが取れてないんじゃないか?
  • 感染したんじゃないか?
  • 病気になるんじゃないか?
  • 鍵などが空いているんじゃないか?
  • ミスが起こるんじゃないか?
  • 火が消えてないんじゃないか
  • 人に攻撃したんじゃないか?
  • 納得がいかない
  • きちんとした手順ではない
  • バチが当たるんじゃないか?
  • 自分は同性愛者/性同一性障害なんじゃないか?
  • 自分は犯罪者なんじゃないか?
  • 自分は未知の病気にかかっているんじゃないか?
  • 自分は、ものごとをしっかりと理解してないんじゃないか?

などがあります。

強迫観念の特徴としては、以下のものがあります。

  • 不安・恐怖・もやもやなどの不快な感情を伴う
  • 「汚れているのではないか?」「○○をしたのではないか?」などの疑い・不信感などの場合もある
  • 心配の場合は、その心配が本当に起こりそうな気がする。例えば、「汚れているのではないか?」⇒「汚れている」という感じになる。
  • 無視できない。頭に浮かぶと、囚われてしまう。
  • 特定の場面で浮かぶ場合もあれば、ふっと頭に浮かぶこともある
  • 自分では、バカバカしいと思うこともある。「汚れているんじゃないかな?」⇒「汚れていてもいいとは思うんだけれど…でも、念のために手を洗おう」
  • 強迫行為をしないと不安が大きくなってしまう。強迫行為をしたくなる

また強迫行為としては、以下のようなものがよくあります。

  • 手洗い / 洗浄
  • 確認
  • 頭の中で打ち消す
  • 特定の行動をやりなおす
  • 反芻(頭の中でぐるぐる考える)

これらの強迫行為の特徴としては…

  • 強迫行為をしないと苦しい
  • 決められた手順で完璧に強迫行為をしないと、してないのと同じになる
  • 止めたくても止められない
  • 1回では満足できず、何回もしてしまう
  • ここまでの、強迫行為は必要ないと思うときもある

強迫症の診断基準としては、強迫観念と強迫行為のどちらかあれば強迫症の診断ができると書いてあります。しかし、これは正確に言えば間違いです。強迫症には必ず、強迫観念と強迫行為があります。ただ、強迫症のタイプによって、それが分かりづらいこともあるのです。

強迫行為のみに見えるタイプ

強迫行為のみに見えるタイプは整理整頓強迫と呼ばれるタイプです。このタイプの人たちは、服を着直す、ペットボトルや水筒の蓋を固く占める、文字を何度も書き直す、読み直す等の強迫行為をおこないます。

このタイプの人たちは、「怪我をさせたんじゃないかな?」と心配になるのではなく、「もやもやしない感じ」「納得がいかない感じ」が強迫観念になります。しかし、このもやもやした感じがなかなか言葉として表現しづらく、強迫行為のみを行っているように見えます。

強迫観念のみに見えるタイプ

強迫観念のみに見えるタイプとして想像型強迫症というタイプがあります。典型的には、「自分は人に危害を加えてしまったのではないか?」「自分は同性愛者なのではないか?」「自分は、未知の病気にかかっているのではないか?」などの強迫観念に囚われます。

このタイプの人は、頭の中で「本当は、どうなのだろう?」と考え続けることが強迫行為になります。頭の中で答えを探したり、自分を論破しようとしたりします。そのため、目に見える強迫行為をおこないづらく、強迫観念のみに見えてしまうのです。

発達障害との違いは?

発達障害との違いとしてよく出てくるのが、自閉スペクトラム症です。

自閉スペクトラム症のこだわりは、基本的にこだわりが達成できれば不快感は消えるという特徴があります。一方で強迫症は、こだわり通りにできても不快感が残ることが特徴です。

例えば、「文字を綺麗に書き直す」という行動の場合、1回でも綺麗にかければそれで終われるのが自閉スペクトラム症です。綺麗にかけても、もやもやして、書き直したくなるのが強迫症になります。

ただ、実際には自閉スペクトラム症と強迫症の両方を持っている場合も多いので、簡単に強迫症と自閉スペクトラム症を区別することはできません。

統合失調症との違いは?

強迫症の中には、強迫観念が妄想のような人がいます。例えば、「自分の顔が変わってしまうかもしれない」「なにもないけれど何かがついているかもしれない」「悪魔に取り憑かれてしまう」「自分はなぜか知らないけれど人を殺す力を持っている。人に触ったら、その人が死ぬ」などです。これらは、一見すると妄想のように思えます。

妄想との一番の違いは、本人がこの強迫観念を妄想だと認識していることです。妄想とは、その考えが100%正しいと思っている必要があります。そのため、自分自身で自分の考えは妄想だと言っている時点で、それは妄想ではありません。

また、統合失調症との違いとしては、統合失調症はこのような強迫観念にとりつかれた後に、強迫行為はしません。ただ、怖いという感覚だけがあります。一方で、強迫症の場合は、毎回、同じ強迫行為を行いたくなります。このように嫌な考えが出てきた後に、何をするかという点が違います。

ただ、実際は統合失調症の発症するまえに強迫行為が出てる場合もありますし、強迫症と統合失調症の両方を持っている場合もあります。その場合は、区別がつきにくいこともあります。

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投稿者:矢野宏之 投稿日時:

頭の中だけで起こる強迫症の症状

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強迫症の症状は、目に見える洗浄行為、確認行為だけでなく、頭の中だけでも生じます。このような頭の中だけで生じる強迫行為は、どの強迫症のタイプにも生じます。

洗浄強迫:「主に汚れの感染経路を思い出す」「きれいになったと心の中で唱える」「綺麗かどうかを考える」「汚れが薄まっているかどうかを考える」

確認強迫:「人をひき殺していないかどうか記憶を振り返る」「確認したことがあっているかどうかを考える」「理論的に人を殺せないことを証明しようと考える」

整理整頓強迫:「自分が取ろうとしている行動の計画を何度もシミュレーションする」「文字数、歩数などの数を無意識に数える」

想像型強迫「自分が同性愛者ではないと理由を探す」

なぜ、この症状がやっかいなのか?

強迫症の強迫行為が目に見える場合、その動作をとるために「時間」がかかります。体力も使います。そのために、何度も繰り返すと途中で止むことがあります。

しかし、この頭の中だけで起こる強迫行為は、テレビを見ていても、歩いていても、仕事をしていてもつきまとってきます。そのため、一度このような症状に囚われだすと、かなり頭の中にあり続けるのです。

どうして、頭の中に浮かび続けるのか?

強迫症は、行動の悪循環を繰り返す病気です。これらの症状も行動の悪循環を繰り返しています。しかしそこには、3つの大きな症状が関わっています。

1つ目は、「頭に浮かんだことが無視できない」「本当の事のように思える」という症状です。例えば、強迫症を持たない人は、「汚れているかもしれない」「ドアが空いているかも知れない」などのようにふっと浮かんでも、その考えを無視することができます。しかし、強迫症を持つ人は、この症状があるために、ふっと頭に浮かんだ際に、「本当に汚れている」「ドアは空いている」という感覚になってしまいます。そのため、強迫観念が無視できなくなるのです。

2つ目は、「頭に浮かんだ強迫観念をコントロールしようとする」という症状です。これは、直接的に強迫行為を行う場合もあります。他にも、目の前のことに注意を向けようとする、無視しようとする、気を紛らわす、他のことを考えるなどの行動も強迫観念をコントロールしようとする行動になります。

3つ目は、「曖昧なものが苦手」という症状になります。このために、「汚れているかどうか分からない」「ドアが空いているかどうか分からない」「将来、問題が起こるかどうか分からない」「同性愛者かどうかが分からない」という曖昧な状態が苦痛になります。この場合、強迫行為として「はっきりさせる」という強迫行為を取ろうとします。

この3つの症状が頭の中でぐるぐると回る正体です。特に頭の中にずっと苦しい感じが浮かんでいるタイプの強迫症の人は、頭の中で何が悪循環を引き起こしている行為なのか分からない傾向にあります。

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投稿者:矢野宏之 投稿日時:

想像型強迫症

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強迫症の中には、目に見える強迫行為を行わない強迫症のタイプがあります。想像型強迫症という名前が海外ではよく用いられていますが、「侵入思考」「望まない考えの強迫症」「純粋強迫観念」などの言葉で呼ばれることもあります。

このタイプの強迫症には幾つかのテーマがあることが知られています。

 

性的な強迫観念(Sexual Orientation OCD)

性的なテーマが中心の強迫症では、「自分が性同一性障害/同性愛者なのではないか?」という強迫観念が中心です。主な強迫行為としては、自分の過去の行いを振り返り、性同一性障害/同性愛ではない証拠を確認するなどが中心です。同性と接するような社会的場面を避けることもあります。安全希求行動として、自分の行動が性的な興奮にあたるのかどうかを調べたり、他人に聞くこともあります。

また、「自分が小児性愛や異常性癖の持ち主なのではないか?」などのように性に関する不道徳的な思考を持っていたり、性的な加害者であるかもしれないという強迫観念もあります。

 

宗教的な強迫観念(Scrupulous)

宗教的なテーマが中心の強迫症では、「私は、◯◯信者としてふさわしくないんじゃないか?」「実は、自分は不道徳な人間なのではないか?(例えば、知らない間に不倫をしているのではないか?)」という強迫観念に悩まされます。この強迫症は歴史的に最も古い強迫症と言われています。強迫行為としては、頭に浮かんだ疑惑を打ち消すためにお祈りをしたり、罪の告白をすることもあります。

 

対人関係の強迫観念(Relationship OCD)

対人関係に関するテーマは、恋人や結婚相手などの親密な人間関係において生じます。強迫観念としては、「パートナーに自分はふさわしくないんじゃないか?」「パートナーから好かれていないのではないか?」「自分は、パートナーのことを好きではないのではないか?」などの強迫観念に囚われます。これらの疑惑にとらわれて、日常生活に支障が出てしまいます。強迫行為としては、相手に好きだと言ってもらう、過去の自分の行為を振り返って自分の心配を打ち消そうとするなどがあります。回避として、パートナーと一緒にいることを避ける方もいます。

 

攻撃に関する強迫観念(Harm-OCD)

いわゆる確認強迫は、人になにか危害を加えてしまったのではないか?という強迫観念が浮かびます。この攻撃に関する強迫観念の中にも、強迫行為を行わないタイプの人がいます。例えば、「自分は過去に誰かを傷つけたのではないか?」「自分は実は、犯罪を犯したのではないか?」「自分はサイコパスなのではないか?」などです。攻撃に関するテーマの場合、通常の確認強迫と違い、確認ができない場合がほとんどです。そのため、頭の中で疑惑を打ち消そうとしたり、周囲に保証をしてもらうなどの強迫行為を行います。

 

健康に関する強迫観念(心気症/病気不安症)

これは自分の健康に対する懸念や心配が出る強迫症のタイプです。以前は心気症と呼ばれていました。しかし、近年は強迫症との関連が指摘されています。実際に強迫症と合わせて持っていることも多い強迫症のタイプです。例えば、「自分は、未知の病気にかかっているのではないか?」「病院では自分の病気を見過ごされているのではないか?」「自分は、HIV(もしくは、AIDS)にかかっているのではないか?」などのものが強迫観念としてあります。このタイプは、強迫行為(安全希求行動)として病院を受診することを良くします。もしくは、インターネットで、「◯◯の安全性」などについて調べたり、周囲に安全かどうかを確認したりします。

 

このタイプの特徴は?

このタイプの強迫症は、「自分の特性」に関する強迫観念が中心になります。自分の性質など変えられないものであり、取り除けないので悩み続けます。疑惑が晴れないという感覚がもっともぴったりくる言い方ではないでしょうか。違う言い方をすれば、「自分が考えていること、自分の気持ちが信じられない」という感覚に陥ります。

このタイプの強迫症は、侵入的であることがほとんどです。例えば、「汚いものに触ったときに、苦しくなる」「車を運転しているときに、人をひいたか気になる」などのように特定の状況下で強迫観念が生じるのではなく、常に頭の中に強迫観念が浮かびます。もしくは、なんのきっかけもなく頭に浮かびます。

 

治療は?

まず、このタイプの強迫症で最も大切なのは心理教育です。自分が犯罪者ではないかと感じる人は、犯罪者であることはとても少ないのです。実際のサイコパスは、犯罪者ではないかと悩むことはとても少ないという事実があります。

このタイプの強迫症では、認知行動療法に対する難治性が指摘されています。一つは、他の強迫症でみられる外的な刺激がない場合がほとんどであるからです。そのため、現実場面暴露ということができない場合もあります。

このタイプの強迫症で多い認知的な特徴は、「考えたことが現実になる(Thought-Action Fusion)」です。例えば、「自分が同性愛者ではないか?」と考えると、それが現実になるような感じがしてきます。この考えたことが現実になるという考えに対して、暴露を用いて考え方の修正を測っていくことになります。

 

 

 

 

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投稿者:矢野宏之 投稿日時:

洗浄強迫に潜むさまざまな思考

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洗浄強迫は、さまざまある強迫症の中でも特に多く見られる強迫のタイプです。

この洗浄強迫の人のもつ思考は、人が感じる嫌悪感情と関連があるとされ研究が進められています。今回は、嫌悪に関する心理的研究から分かってきたことをまとめて紹介します。

 

共感呪術的思考

共感呪術とは、文化人類学者のジェームズ・フレイザーが定義した呪術の理論です。合理的に考えると誤っていることがわかるのですが、強迫症の傾向を持つ人は、ある考え・ある行動と出来事との間に因果関係があると考えてしまう、呪術を行なうときとよく似た思考の癖を持っていることが分かってきました。

 

・類似の法則

形の似ている物同士は、その見た目が似ていることから本質的な性質も似ていると考える法則です。この法則のように、本来は害の無いものであることが分かっていても、不潔なものと形状が似ているなら同じく不潔であると考えてしまいます。

例えば、ゴキブリを不潔だと感じてしまう人にとっては、そのゴキブリは滅菌処理されていて清潔だと伝えたとしても、その見た目がゴキブリである限りは不潔であると感じて嫌悪してしまいます。

 

・接触の法則/感染の法則

「一度汚れたものと接触したものは、その汚れを取り除いたとしても汚れ続けている」と感じる思考です。

例えば、動物の糞が不潔であると感じる人にとっては、動物の糞を靴底で踏んづけて接触してしまうと、その靴底の汚れを拭き取ったり洗ったりしても、「動物の糞に触れた靴」として汚れ続けていると感じて嫌だなと思ってしまいます。

 

ルーミング脆弱性

これは、体験したことのない人が聞いていると、とても奇妙で不思議な感覚だと思われるかもしれません。強迫症の傾向を持つ人は、このルーミング脆弱性と呼ばれる認知特性を持っていることがあります。「汚い」と感じる汚染物質(菌なども)が空間に広がっていき、自分に接近してきたり、浮き上がって見えていたり、大きくなっているように感じる感覚です。

例えば、たくさんの洋服がハンガーにかけられているのを見ていても、そのうちの1つが何らかの原因で汚れていると感じてしまったら、その汚染を感じてからは、その服だけが気にかかり、どうしても浮かび上がるように見えて注意がそちらに向かい、避けようとしてしまいます。また、その洋服に触れた人を通して、その汚れが拡散していくイメージを浮かべてしまうのです。

 

精神性汚染

これは、実際に汚れたものと物理的な接触が無いにもかかわらず、その汚れていると感じたものを見たり、感じたり、考えたりしたことで、自分や周りが汚れてしまうと感じる感覚です。汚いと認識した人物がその室内に入ってきただけで、その空間が汚れていくと感じてしまったり、汚いものだと感じる声や音を聞いたことによって自分が汚されてしまったと感じる精神的な汚染の感覚です。

 

安全な場所(聖域)

洗浄強迫を持つ人は、その汚れが部屋中に広がっていく様子を頭の中で鮮明にイメージすることができます。汚れに触れた人を通して、その汚れに触れた人が移動して他のものにふれることで汚れが拡散され、その区域が汚れていく様子や、汚れたものがその場所にあると感じることで、その空間そのものが汚染されていくとハッキリと感じます。そのため、安全な場所(聖域)と呼ばれる区域を確保し、その場所にいれば汚れることがないと感じるといったことがよく見られます。そして、その場所が絶対に汚れないように守ろうとします。

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投稿者:矢野宏之 投稿日時:

強迫症の人のための正しいHIV知識

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強迫症では、HIVに感染することが怖いという強迫観念に悩まされている患者さんも多いです。

HIVはAIDSを発病する原因となるウィルスです。性感染症として代表的なもので、感染者数も年々増加している傾向にありますが、未だその感染に関する正しい知識が広く浸透していないのが現状です。そのため、一部の強迫症を持つ人の中には、HIVに感染するのではないか?という漠然とした恐怖感を抱いてしまうものの、その不安を回避するための強迫行為が非常に不合理で非適応的なものになってしまっています。

どのような行為で感染するのか、感染しないためにはどのような対策が必要なのかといった正しい知識を学んでいきましょう。

 

HIVとは?

HIV(Human Immunodeficiency Virus)ヒト免疫不全ウィルスは、ヒトの体内でさまざまな病原菌・病原体からわたし達の体を守っている免疫細胞に感染し、増殖するウィルスです。自らを増殖させる力を持たず、ヒトの細胞に感染することで細胞を乗っ取り、細胞自体の起こす細胞分裂によって増殖していきます。

AIDS(後天性免疫不全症候群)は、このHIVに感染した結果、ヒトの体内で免疫機能に必要な細胞が徐々に減少してしまうことによって、免疫機能が低下し、普通の状態であれば感染することのない病気にかかるようになってしまう疾患です。AIDSの状態になった際に発症する代表的な疾患は23種あり、そのうちの1つを発症した時点でAIDSと診断されます。HIVに感染することですぐにAIDSを発症するのではなく、未だAIDSを発症せずにHIVに感染しているという状態であれば、HIV感染症と診断されます。

 

HIV感染経路に関する誤解と正しい知識

HIVに感染する経路として最も多いのは性行為による感染です。
HIVは、ヒトの血液や精液(カウパー液を含む)、膣分泌液、母乳などに多く分泌されます。健康な皮膚の上からこれらの体液に触れることで感染することはありません。しかし、傷口や粘膜から、HIVに感染した疑いのあるこれらの体液に直接触れることによって、感染する可能性が出てきます。

このことから、膣に陰茎を挿入するセックスや、膣や陰茎を口で舐めるといったオーラルセックス、肛門によるセックスが、最もHIV感染の可能性を高める行為であるといえます。陰茎や膣の内部も膜に覆われていますが、性行為の運動によって細かな傷がつき、そこからウイルスが侵入してしまいます。もしも、カンジダ症などの他の性感染症に罹患している場合に性行為を行うと、粘膜の炎症によって膣内や亀頭が傷ついているため、より感染の確率が上がってしまうことになります。現在では、HIVに感染した約8割の人が性行為による感染であることが分かっています。

また、血液からの感染では、輸血や注射器・注射針による感染があげられます。注射器による感染は、麻薬の乱用で注射器を共用で扱い、回し打ちをしてしまうことによって、感染者の血液からヒトの血管内にHIVが侵入してしまいます。

強迫症の人の中には、「タトゥーの入った人の触れたものを恐れる」という強迫観念を持つ人がいますが、これは入れ墨やタトゥーをつけた人=麻薬を使っていそうだという先入観=血液感染によるHIV感染者という決めつけが行われているものと思われます。

感染は医療現場でも起こり得ます。医療の現場では、医療従事者に対して安全で適切な注射針の取扱方法や廃棄方法が指導されていますが、これらの管理を誤った場合に針刺し事故が起きてしまいます。この場合、二時間以内に抗HIV薬を服用することによって感染の危険性を低下させる処置が行われます。

さらに母子感染では、母体がHIVに感染していた場合、出産時の産道からの感染や、母乳による感染、赤ちゃんが母親の胎内にいる間に感染する場合があります。しかし、この場合は、妊娠初期のHIV検査によって感染の有無を調べることができますし、万が一感染していた場合は、母子感染を防ぐために妊娠中の抗HIV療法が行われます。他にも適切に母子感染の予防対策が行われることによって、現在ではその感染率は0.5%にまで減少しています。

強迫症の患者さんによく見られる強迫観念として、HIV感染者かもしれない人が触ったものに触れると感染するのではないか?という恐怖や、赤いシミ(=血液のように見えるもの)に触ると感染するのではないか?というような、「漠然とした怖いイメージ」の恐怖が多いようです。また、キス(または舌を絡ませるキス)をすることで感染するのではないか?といった不安も見られます。

HIVはとても感染力の弱いウィルスで、その弱さのせいで人間の体の中にしか存在することができません。そのため、ひとたび体内から外に排出されてしまうと、その感染力をなくしてしまいます。例えば、HIV感染者の座った疑いのある便座に座っても大丈夫か?という問いに対して、それは健康な皮膚が触れても問題ないですし、その便器の中の水が皮膚に触れることによる感染もありえないということができます。

汗や尿、唾液や涙といった体液にもHIVは存在しますが、ヒトに感染させるだけのウィルス量には達していないため、これらの体液との接触による感染も起こりません。そのため、キスをしたり手をつなぐというような行為からHIVに感染するということは起こりません。インフルエンザウイルスのような飛沫感染も起こりえないため、咳やクシャミによる感染もありません。つまり、強迫症の人の回避行動として多く見られる「HIV感染者のいそうな場所を避ける」という行動は、もし仮にその場にHIVに感染した人がいたとしても、その人からの飛沫感染や、触れたものを通した間接的な感染が起こりえないということが分かるので、感染予防としては効果のない行動であることが分かります。

また、HIVがヒトの細胞内に侵入するためには、直接血液の中に侵入するか、粘膜や傷口を通して侵入するといった経路しかありません。人間の体の表面は、何層にも重なった皮膚によって守られています。HIVは、その健康な皮膚を通して侵入することができないため、HIVに感染した体液に手や指で触れたとしても、それによって感染することはありません。

赤くシミになっているようなものは、つい血液を連想してしまいがちですが、HIV感染の疑いのある血液に触れたとしても、その指が怪我を負っていなければ感染することはありませんし、一度体の外に出たHIVは感染力を失ってしまうということもあり、触ってしまっても問題はないといえるでしょう。

 

正しいHIV感染予防と強迫症

HIVに感染すると、およそ二週間~六週間ほどで、インフルエンザのような発熱に倦怠感、頭痛や筋肉痛といった症状が現れます。この急性期で体内のウィルスが急激に増殖しますが、患者本人の免疫が機能することで数週間のうちに症状は消失します。その後は目立った症状の見られない無症候期に入り、HIV検査を受けなければ自分が感染していると気づかないまま生活していくことになります。この期間の間に、HIV感染の状態でコンドームを付けないセックスをするなどして、他者にHIVを感染させてしまうことになるのです。

強迫観念と結びついてしまうのは、この無症候期があることから、一見して健康そうな人でもHIVに感染しているかもしれないと恐れたり、その感染者が触っているのかもしれないと恐れてしまうことにあるのでしょう。HIV感染は、正しい知識をもって対処していれば予防することが可能であるということを覚えておきましょう。

この無症候期は人によって数年から10数年続くこともあれば、感染して間もないうちにAIDSを発症する人もいます。HIV検査を受けて陽性であることが判明しても、抗HIV薬を服薬することによってウィルスの増殖を抑えたり、無症候期を維持したままAIDSの発症を抑えることができます。

しかし、強迫症の患者さんの中には、HIV感染を恐れるあまりにHIV検査を何度も何度も受け続けてしまうという強迫行為も多く見受けられます。HIV感染予防として、自分や大切な人を守るために、性行為を行うことを決めたならば、事前にHIV検査を受けるというのは大切なことです。ただ、たとえ陰性という結果が出たとしても、感染の恐れに関する強迫観念が何度も湧き上がってきてしまうことで、感染疑いの状態を消し去ろうと何度も検査を受け続けてしまうようになるのです。強迫症でHIV感染恐怖を抱える人にとって、自分がHIVに感染しているのかどうかを確認したいということが関心ごとの中心となるため、実際にHIV感染のリスクがある行動(性行為)をとっていないにも関わらず、HIV検査を繰り返し受けてしまうということが起こります。

HIV感染を防ぐためには、不特定多数とのセックスを避けることや、性行為そのものをしないと決めてしまうということ、また、セックスをする場合であれば、信頼のできる特定の相手と、コンドームを使った安全なセックスを行うように気をつけるということです。最近では安全なオーラルセックスのためのコンドームも販売されています。特に、腸管の粘膜は膣粘膜に比べて傷つきやすく、肛門性交によって感染する割合が多くなっているので注意が必要です。どのような場合の性行為であっても、コンドームという鎧で粘膜を保護することによって、お互いの感染を防ぐことができます。

強迫症の治療としては、その人の持つさまざまな形で現れるHIV感染に対する恐怖感と向き合い、その強迫観念が事実に即して本当に起こるかどうかを実際に調べてみる「行動実験」や 、その恐怖感に自分を少しずつ慣らしていく「暴露療法」が用いられます。予備知識として、必要以上に恐れたり間違った予防法で危険を冒してしまわないためにも、HIV感染について正しい情報を得て学んでおくことも、とても大切なことなのです。

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