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強迫性障害(強迫症:OCD)の家族からの相談も増えています。ERP(暴露儀式妨害法)を行うのは、強迫症の方本人ですが、家族にも強迫症の方にもできることはたくさんあります。今回は、引きこもり状態に陥っている強迫症の方、治療を継続している強迫症の方に家族ができることをテーマに書きたいと思います。
まず、強迫症が悪化すると、引きこもり状態になります。これには様々な理由があります。まずは、併発するうつ病により外出が困難となる場合です。この場合は、うつ病の治療を併用する必要があります。うつ病に対する認知行動療法も幾つか方法があります。認知再構成法、行動活性化療法と呼ばれるような方法です。
また、多くの強迫症の方は強迫行為をしたくないために、強迫行為をしなくてもいい環境を作ろうとします。洗浄強迫の方は、家・部屋だけを徹底的に綺麗にして、外から入ってきたものだけを洗浄するという対策をとったり、家に居続けることでスイッチ、落し物、誰かに危害を加えるという状況が起きないように対策をとったりします。このような状態に陥ると、家族が認知行動療法の説明をしても、『そんな治療法はやりたくない』と治療を拒んだり、外出そのものもできなくなってしまいます。このような状態の際に役に立つ認知行動療法の方法があります。それは、CRAFTと呼ばれる、認知行動療法の方法です。CRAFTは、もともと治療期間に行かないアルコール依存症患者の家族に認知行動療法の技術を学んでもらい、患者本人を治療機関に繋げるプログラムでした。現在は、引きこもりの方を持つ家族へと応用されています。
ここでは、CRAFTの中からコミュニケーション戦略を紹介したいと思います。というのも、家族が強迫症の方本人とどう関わるかが、強迫症の方を治療に繋げる鍵になっているからです。コミュニケーション戦略は8つあります。以下に、これらを列記したいと思います。

①会話する時間を短くする
長い話は、本人を退屈させます。また、過去の話しが蒸し返しやすくなります。なるだけ30秒以内に会話を終わらせます。ポジティブな終わり方をするように心がけるましょう。
☓「また、そんな言い方で怒って!あなたは、昔から、こんなことを繰り返してるのよ。いつもそう。そんな言い方をしているうちは、変わらないよ」 → 「怒ったように言われると、悲しくなるから、もう少し優しい言い方をして、ちゃんときくから。」

②「して欲しくないこと」ではなく、「して欲しいこと」を伝える
禁止をされると感情的なわだかまりが生じ、どんな行動を取っていいか分からなくなります。なるべく、して欲しいことに言葉を変えて伝えることが有用です。
☓「インターネットばかりするのはやめなさい」 → ◯「時々は、外に出て散歩をしてみたら?」

③特定の行動について言及する
態度、考えを取り上げて会話を進めると変化が分かりづらくなります。なるべく、特定の行動を取り上げて会話を行うと、本人・家族の両者にとって変化が分かりやすくなります。
☓「家にいるときは、手伝いをしてよ」 → ◯「家にいるときは、お茶碗をあらってよ」

④自分の気持ちを把握する。
自分が怒りを感じた場合、それを遠回しに伝えてしまうと、相手を遠回しに非難しているニュアンスになってしまいます。自分の気持ちを伝えるか否かは慎重に考える必要がありますが、自分の気持ちを把握することは必要になります。
☓「そういうことをやっていると、周りの人にどう思われていると思う? あなたは、どう思うわけ?」 → ◯「そういうことをやっていると、私は悲しくなるのよ」

⑤本人の気持ちに共感する
共感がないコミュニケーションをとり続けると、相手が頑なになってしまいます。本人なりの辛さに共感することで、頑なな態度に理解を示しましょう。
☓「そういうことばかり言っていても何も始まらないよ」 → ◯「確かにこの状況だと、もうなにをしても変わらないって絶望的になると思う」

⑥部分的に責任を受けいれる
変化の過程で、本人は家族にも責任があると言う時があります。その際に、その言い分を部分的に認めることで、頑なな姿勢をとき、変化へと繋げていきます。
☓「お前が悪いって、いうけれどさ。そういやって人のせいにしかできないと何も変わらないぞ」 → ◯「確かに、私の言い方が厳しかったり、お前の気持ちに合わないこともあった。」

⑦悪循環に入っていることを悟らせる(自省を促す)
今の行動を続けていくとどうなるかについて、考えてもらうようにします。
☓「このまま、家にずっと居ても何も変わらないぞ!」 → ◯「このまま家にずっといたら、傷つかなくてすむかもしれない、でもそれも何十年も続くわけではないからね」「このままずっと家にいたら、10年後、20年後は、どうなっていると思う?」

⑧支援を申し出る
たとえ、援助を拒んでいるように見える人でも、何かのタイミングで助けて欲しいと漏らすことがあります。また、支援を受けてもいいかなと思う時があります。そのチャンスが巡ってきた時に、支援を申しでて、なおかつ相談機関の受診も迅速に行います。最善の策は、その日に受診することです。
☓「まずは、外出することからはじめてみなさい」 → ◯ 「まずは、どんなことから手伝えそう?」「今から、明日受診できるところがないか探してみるね」

以上のポイントは、引きこもり状態から脱するための関わり方のポイントです。実際のカウンセリングでは、これらの戦略に基いてロールプレイを行います。家族もロールプレイを通して練習することで、上達します。

また、強迫症の症状の一つに巻き込みと呼ばれるものがあります。巻き込みとは、母親に洗ってもらわないと綺麗だと思えない、夫に大丈夫だと言ってもらえないと安心できなどの他者を媒介して行う強迫行為のことです。家族は、巻き込みの対象となっている場合があります。巻き込みの対象となるのは夫婦だとパートナー、家族だと母親になることがほとんどです。この巻き込みが生じると、介護負担がとても大きくなります。
強迫症の方への支援をする上で家族の協力は、必須になります。いくら、ERPをしても、家族が巻き込まれたままだと強迫症はよくなりません。言い換えれば、家族の協力なくして、強迫症に立ち向かうことはできないのです。家族は、患者本人に対する認知行動療法家になってもらいます。こう話すと、少しハードルが高いのですが、認知行動療法の専門家は、万人に対して専門家でなければなりません。しかし、家族は自分の家族に対してだけ専門家であればいいので、少し肩の力が抜けるかもしれません。
家族がまず、やるべきは強迫症本人の症状を把握することです。強迫症は、強迫観念と強迫行為が交互に起こります。強迫観念は何なのか、強迫行為は、回避行動は何か?と整理するとよいでしょう。例えば、強迫観念:「スイッチを消し忘れているんじゃないか?」 強迫行為:スイッチを何度もつけたり消したりして確認する、外出先で、家にいる母親に電話をかけて、大丈夫かを確認させる(巻き込み) 回避行動:外出するときは、必ず家に誰かいるときに外出する などです。この場合、「スイッチを確認せずに外出する」ということが条件によりERPになったりならなかったりすることが分かります。その条件とは、『家に誰か居るか・居ないか』になります。このように一つ一つを丁寧に把握していくことがまずは大切です。家族でよく多いのは、手洗い等が長いことは知っているが、どんな手順で行なっているか、何が気になっているのか?(強迫観念)が掴めていないことです。家族が強迫行為をつかめていると、かなり治療が楽になります。
上のように症状がまとめられるようになると、実際にどう対応すればいいかが見えてきます。例えば、上の例のように、巻き込み確認の電話がかかってきた場合を想定してみましょう。

恐らく、通常は…
本人:「ねえ、家の台所のスイッチ消えてる?」
母親:「消えているよ」
本人:「ほんと? ちょっと、一回消して、もう一回つけて、それから消して、消えるか確認してよ」
母親:「はいはい、したよ。何もなかったよ」
本人:「本当? 何もおきない?」
母親:「何も起きないよ。大丈夫。スイッチを付けてても、何も起きないって。電気代があがるだけよ」
本人:「家事になったりしない?」
母親:「しないよ。」
本人:「電気が漏れたりしてたら?」
母親:「漏れてないよ。さっき確認したし。漏れてても大丈夫だって」

のような会話になると思われます。
この場合、母親は保証をしようと何度も巻き込み強迫につきあっています。強迫症の確認は、健常人の確認とは質が違うので、大丈夫だと何度言っても安心感を得にくいのです。むしろ、大丈夫だと保証すればするほど、症状は強くなることが精神医学的に分かっています。また、心理学的な観点として、大丈夫を連発してしまうと、投げやりに言っているように聞こえて、むしろ、発言に信頼感がなくなってきます。また、上の例では様々な説明を行うことで、安心してもらうように説得しています。多くの場合、このように説明を増やしていくことで、不安をあおってしまうのです。

関わり方のパターンにはいくつかあるりますが、私が家族向けに説明するのは
・ソクラテス的質問法による心理教育
・動機づけ面接法(選択肢を二つ提示する)

の二つを家族向けに説明することが多いです。

ソクラテス的質問法とは、ギリシャの哲学者ソクラテスが、相手に質問をすることで、相手に何かを悟らせる方法のことです。認知行動療法の技術の一つになります。このやり方の逆は、一方的な説得・お説教です。

相手に質問することで、以下の二つを分かってもらうようにします。
・「大丈夫だと言って欲しい」と要求することは、強迫症の症状であるということ
・大丈夫だと言っても、長い目でみると安心できないこと(すぐに同じような不安が出てくる。次からはもっと、大丈夫と言わないと安心できなくなる)

例えば、こんな風な会話の展開です。
本人:「ねえ、家の台所のスイッチ消えてる?」
母親:「私が、消えているって言ったら、どうなる?」
本人:「安心する。ねえねえ、消えてる?」
母親:「安心するよね。そしたら、その後は?」
本人:「大丈夫になるよ。」
母親:「今まで、そうなってきた?」
本人:「……なってないけど…。でも、言ってもらったら、安心するから」
母親:「私が、消えているって言って、落ち着いた後はどうなると思う?」
本人:「あとで、やっぱり気になるようになる…?」
母親:「そうそう。今まで、そうだったよね? 電話してきて、その後で、また電話してきたりしたよね?」
本人:「うーん。確かにそうだった。」
母親:「これは、強迫性障害の症状だから、そうなるって、先生が言ってたでしょ。」
本人:「そうだけど…。ねえ、スイッチ消えてる?」
母親:「私が、スイッチが消えてるって言ったら、強迫性障害はどうなるの?」
本人:「治らんかもしれんけど…気になるから。ねえ、お願い。」
…以下続く

このように展開していきます。このように会話を展開していくと、確認までの時間が伸びていくため、実は少しERPになります。ある程度は、このような会話で落ち着く場合もあります。

もう一つの戦略は、動機づけ面接法です。これは、近年、認知行動療法と同時に用いると効果があると言われている方法です。その中から、よく使う方法を解説します。基本的な戦略としては、強迫症の辛い部分に共感する、強迫症状を減らしたいと思っていることを引き出す、2つの選択肢をあげ今後どうするかを選んでもらうという流れになります。

あげる選択肢は、
・強迫行為を行い。今の安心感は得られるが、強迫行為に長く時間を使ってしまう
・強迫行為を辞め、今の安心感は得られないが、強迫行為に使う時間を減らせる

この時のコツは、強迫行為を行う選択肢を選んだとしても、その選択肢を自分が選んだという自覚を持ってもらうことになります。

例えば、こんなふうになります。(先ほどの続きから)

母親:「私が、スイッチが消えてるって言ったら、強迫性障害はどうなるの?」
本人:「治らんかもしれんけど…気になるから。ねえ、お願い。」
母親:「確認して、今はすっきりする生き方と、確認をがまんして確認している時間を減らす生き方のどっちがいい?」(選択肢の提示)
本人:「えー。確認はして、確認している時間を減らす方がいい。」
母親:「二つのうちのどちらかしか、選択肢はないよ。どっちがいいの?」
本人:「確認は、したい…だって、気になるし…。」
母親:「じゃあ、今はすっきりして、確認をずっとし続ける生き方ね」(少しいじわるな念押し)
本人:「確認をずっとするのは嫌だ。だって、安心して外出できないし」
母親:「ほんとね。外出するたびに、こんなに気になってたら、本当に辛いと思うよ」(辛いことへの共感)
本人:「ほんと、これがあるから外出できなくて、高校も辞めたし」
母親:「そうよね。色々、無駄にしたものもあったしね」(辛いことへの共感)
本人:「でも、今日はきついから確認したい。 ねえ、消えてる?」
母親:「じゃあ、確認をずっとし続ける方でいいのね?」
本人:「今日は、きついからいい。認知行動療法やった方がいいってのは分かるけど…今日はきつい」
母親:「認知行動療法やった方がいいって思ってるのね。色々と真剣に考えているのね」(変化することへの願望を拾う)
本人:「いや、考えてるよ。ほんと、強迫治したいし。でも、今日はだめ…」
母親:「そう、分かった。じゃあ、スイッチ消えてるか見てくるね」

このように、会話の中で、少し意地悪な念押し、辛いことへの共感、変化することへの願望を拾うなどのこと(動機づけ面接法では、別の正式な呼び方があります)をすれば、例え最終的に強迫行為を行なったとしても、認知行動療法へのモチベーションや意識はあがります。

最後に、強迫症への治療の入り口は、強迫症の本人にも、家族にもなりえます。この他にも色々な方法がありますから、治療をあきらめないで頂きたいと思います。

参考:強迫性障害を持つ家族にできること:手順を省く、簡素化する

 

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