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なぜ強迫行為をしても上手くいかないのか?

強迫性障害は、強迫観念とそれを打ち消そうとするために行う強迫行為によって特徴付けられる病気です。多くの強迫性障害の方は、強迫行為こそ自分の苦痛を取り除ける唯一の方法だと思い、「手洗い」「確認」「周囲への質問」「やり直し」「数える」「以前にいた場所に戻る」「お祈りをする」などの行動をとります。しかし、強迫観念はこれらの強迫行為では取り除くことができないのです。

強迫行為を行えば、一瞬だけ、強迫観念がうすれる時があります。例えば、3時間くらい手洗いをしたり、確認をすれば、少しの間ほっと出来る時間、悩まないでいる時間ができます。しかし、それはつかの間で、また強迫観念が襲ってきてしまうのです。

また、強迫行為と同じくらいやっかない行動として回避行動という物があります。これは、強迫行為が起こらないように、事前に対応策を行う行動です。「手袋をはめて汚いものを触る」「代理の人に洗ってもらう」「部屋からでない」「ものを持ち歩かない」「外出しない」などの行動が回避行動にあたります。

回避行動を行えば、強迫観念が起こりづらく、強迫行為をしなくてもいいかもしれません。しかし、いつも強迫観念がおきないか気を使っていなければいけません。例えば、今触ったものは綺麗なものなのか、綺麗ではないものなのか考え、今からすることは危険なことなのか、リスクがあることなのかをいつも気にしながら生活をする必要があります。そして、そんな生活を送っていると、「もう、外に出ないほうがいい」という考えがわき始めます。行動が制限されてしまうのです。

強迫性障害に対する認知行動療法は、全く逆の発想をしていきます。不安・恐怖から逃げないのです。そして、不安・恐怖を取り除こうとしません。しかし、こうしていくことで、強迫観念の囚われから解放されていくのです。

 

なぜ認知行動療法を使うのか?

実は、(認知)行動療法は、1980年代からある古い方法です。そのため、世界中で多くの研究が行われています。例えば、イギリスのNICEガイドラインと呼ばれる、診療ガイドラインでは曝露反応妨害法(暴露儀式妨害法)を用いなさいと書かれています。他の国々でも、強迫性障害には曝露反応妨害法が最も推奨されることが書かれています。

認知行動療法を用いるメリットとしては、まずは薬物療法と同じように効果があるということがあげられます。まず、薬物療法だけで寛解に至る強迫性障害の方が少ないのです。たとえ、SSRIを服用していても強迫行為を行うならば、SSRIの効果は少なくなることも関係しています。また、私の実感としてSSRIが効きづらい強迫性障害のタイプもあります。総じて、私の所に来る方の多くは薬物療法のみで十分な改善が得られなかった方が多いです。

他のメリットとしては、薬物療法のみで改善をすると再発しやすいことがあげられます。強迫性障害は残念ながら再発しやすい病気です。本当に薬物療法のみで改善してしまった方は、再発しそうになった際に、認知行動療法の技術を習得していないために、簡単に再発してしまいます。

反対に認知行動療法を用いるデメリットとしては、非常に根気がいることがあげられます。認知行動療法は継続して取り組めないと上手く改善できません。特に1人でやると、モチベーションを維持し続けることに苦労するでしょう。 これを補うために、私はLINE上で、強迫性障害のサポートグループを運営しています。

参考:OCDのLINEグループ

 

症状を把握する

強迫性障害に限らず。全ての治療の最初は症状を細かく把握することになります。認知行動療法をしっかりと行うためには症状を丁寧に把握する必要があります。

例えば、曝露反応妨害法(ERP)を行なっていくためには、どのような刺激にどのように暴露するか?、どんな強迫行為を反応妨害(儀式妨害)すればよいか?という点が重要です。これらを丁寧に把握しなければ、曝露反応妨害法(ERP)は失敗してしまいます。そのため、症状の把握はとても大切なのです。

参考:強迫症(強迫性障害)の強迫観念と強迫行為の分類とタイプ:タイプによる治療戦略

さて、強迫性障害は、強迫観念と強迫行為という二つの症状があります。代表的な洗浄強迫では強迫観念として「汚れたのではないか?」強迫行為としてて”手洗い”があります。しかし、中には洗浄強迫なのに強迫行為として”確認”を持っている方もいます。つまり、強迫観念と強迫行為は必ずしも一対一の関係にないのです。特に、強迫行為としての確認を引き起こす強迫観念の種類は無数にあります。曝露反応妨害法は、「確認を我慢する、鍵を開けっ放しにして外に出る」というだけではないのです。

症状の把握には、通常Y-BOCSを使うことが多いです。

参考:強迫性障害の症状をチェックする(Y-BOCS)

Y-BOCSには、ほぼ全ての強迫性障害の症状が載っています。この症状リストを用いてチェックすると、自分が強迫性障害の症状だと思っていなかったものが引っかかる場合があります。私も、実際のカウンセリング場面で時間が許せば、この症状リストをチェックしてもらいます。その結果、見落としている症状を発見できることがあります。

また、併存疾患も確認しておく必要があります。例えば、自閉スペクトラム症(ASD)、ADHD等の発達障害を持っていると治療は大きく変わります。なぜなら、これらの認知特性を把握しながら治療を考えていく必要があるからです。うつ病、双極性障害などの気分に関連がある病気の場合は、症状と気分との関係が大切になってきます。場合によっては先にうつ病や双極性障害の治療を優先する必要もあるでしょう。トラウマの問題がある場合は、トラウマの問題についてアプローチしていく必要もあります。このような治療をどの順番で行うかを考えるために併存疾患の確認はとても大切です。

症状の把握には、網羅的に把握することと同時に、一つの症状を掘り下げて把握していくこともポイントになります。例えば、手洗いの順番、どこで繰り返しが起こっているかなどを把握していくことで、どの部分から治療を行いやすいか、どんな不安を感じているかを把握していくことになります。

 

心理教育

心理教育とは病気のことを理解していくことになります。例えば、「頭の中で、感染経路をさかのぼって考える」といった行動も強迫行為になります。強迫行為は目に見えるとは限りません。強迫行為が目に見えるものだけだと思っていると、この強迫行為をやり続けてしまい、結果として改善していかない事になります。そのため、心理教育はとても重要です。

参考:目に見えない強迫行為の落とし穴

正確性の強迫などのように、自分がスッキリしたくてやっている強迫行為のタイプは、なかなか自分がやっている行為が強迫行為だと気がついていません。これも、カウンセリングの中でゆっくりとフィードバックしていきます。最初は、私がカウンセリング中に「その行動をするとどうなりますか?」等と訪ねて、強迫行為であることを自分でわかってもらうように働きかけていきます。次第に、私が最初の質問をしただけで、強迫行為だと気がつくようになります。

強迫性障害の心理教育には、「強迫行為をなぜ止めなければならないか?」という点も重要になります。強迫性障害のタイプの中には強迫行為を止めたくないタイプの方がいます。これは、性格ではなく、そのような症状なのです。そこで、強迫行為をなぜやめなければならないか?を考えてもらう必要があるのです。

一つの理由は、「強迫行為をしても、完全な安心は得られずに、気になることばかりが増えるから」です。強迫性障害がひどい時は、強迫行為を行うことのみが、唯一の解決方法だと感じてしまいますが、実はそれは誤解で、強迫行為をしても安心えを得られず、余計に不安に対して敏感になってしまいます。

心理教育の部分では、他にも認知行動療法の仕組みについても説明をしていきます。認知行動療法(特に曝露反応妨害法)についての、しっかりとした理解がなければ自分で曝露反応妨害法の計画を立てることができないことになります。

参考:強迫性障害(強迫症)のよくある質問

 

曝露反応妨害法(認知行動療法)とは?

曝露反応妨害法とは、端的に言えば、「不安な場面にあえて挑戦して、その場面を克服していくこと」になります。例えば、洗浄強迫であれば、汚いものに触ったり、確認をせずに家を出るなど様々な方法があります。また、曝露反応妨害法の最中には、強迫行為をしないようにしてもらいます。

よく曝露反応妨害法は、不安を弱くしていくと書かれていますが、むしろ不安を上げていく方法です。不安があがりきってしまうと、そこで「ある種のあきらめ」が出てきます。例えば、汚いものにさわり続けると、「これくらいの汚れなら、いいでしょ」「どうせ、全部汚れてるし…」という感じになります。そうなると、「汚れ」というとらわれから解放されるのです。

実際のカウンセリングでは、この曝露反応妨害法に関する細かな疑問点に答えたり、自分の症状にあわせて、どんな風にしていくのかを考えていきます。例えば、汚いものに触る以外にも、ボールペンを持って町中を歩いたり、ゴミを捨てたりと症状や、その人によって全く認知行動療法の中身は違うことになります。

 

不安階層表の作成

不安階層表とは、曝露反応妨害法を行なっていく上で不安の強いものから順に、刺激を書きだしたものになります。通常は、SUD(主観的障害単位)と呼ばれる不安の強さを0~100の間で評価します。通常、0が全く苦痛がない、100がこれ以上ないくらい苦痛な状態になります。

例えば、100:トイレの便座に触れる 70:家の玄関の床に触る 60:自分の部屋の床に触る などのように書き出します。

このように不安階層表を作っておくと、治療の順番が分かってきます。通常、曝露反応妨害法はSUDが60以上から始めていきます。なぜなら、あまり小さい所からはじめて行くと効果が実感できないからです。

この辺りは話し合いで決めていきます。「時間がかかってもいい」、「どうしても曝露反応妨害法が怖い」という方はできる所から、「何としてでも治したい」、「短期で治したい」と思う方は高い所から始めていきます。

私の経験では、30辺りだと、「慣れたかどうかは分からないけれど、何となく触れるようにはなりました」という感想が多いです。逆に90以上のものから始めると、「もう、なんでもいいです。」「もう、これができたから何でもできると思います」とおっしゃる方が多いです。90以上のものから始めた場合は30分ほどでこの感覚になります。

不安階層表のもう一つの使い方は、治療がある程度経過した後にもう一度同じ評価を行います。そうすると、治療が上手くいっていれば、SUDの値が変化していきます。例えば、 トイレの便座に触れる100→60のように変化をしていきます。

この不安階層表症状によって、複数できる場合があります。例えば、多くの強迫性障害の方は2つ以上の強迫症状を持っています。最も多いのは洗浄強迫と確認強迫の組み合わせです。その場合、不安階層表が二つできることになります。

また、強迫性障害は色々な症状が出るので、1種類だと思っていても、実は2種類だったということもあります。例えば、不安階層表に従い、多くの項目のSUDが下がってきたとします。しかし、一つだけ不安の強さが変わらない項目があったとします。その項目のSUDの値が変わらないのは、実は別の系列の不安だったということがあるのです。曝露反応妨害法を行なっていない系列の不安はなくなっていきません。全体的に良くなったけれど、なんかこれだけは駄目ですというときに、このようなチェックをしていく事になります。

 

曝露反応妨害法(認知行動療法)を実際にやってみる

治療計画ができたら、実際に曝露反応妨害法を行うことになります。曝露反応妨害法を実際にやるというこの段階が最も大切で、カウンセリングで、最も気を使う場所になります。

曝露反応妨害法は、まずセラピストが暴露の方法のお手本を見せます。スイッチの消し方や、落し物を確認しない方法、汚いものへの触れ方、不吉な数字をどうやって想像するかなど、まずはセラピストがお手本をします。この段階では、どれだけ事前に症状を把握しているかが最も重要になります。

セラピストとしては、クライアントの方の反応をじっくりと観察することになります。例えば、「みんなが使う机の上を触る」という課題でも、一人でやると指先で触ったり、黒いゴミに触れないように触ったりと、細かな回避行動がみられるのです。この回避行動を全てなくしていかなければ曝露反応妨害法にはなりません。

また、せっかく汚いものに触れても、「後で洗えばなんとかなる」「カウンセリング・ルームは清潔にしているはずだから大丈夫」等の頭の中での強迫行為が起こっている場合もあります。これらを見つけて、これらの反応をしないように、またできないように工夫をしていきます。

不安を避ける回避行動や、不安をなんとかしようとする強迫行為が出てくるのは強迫性障害という病気の症状です。これは仕方がないことなのです。しかし、治療上はこれらを一つ一つ見つけてなくしていく必要があります。そうしなければ、せっかく勇気を出して曝露反応妨害法に挑戦したのに、結果が無駄になってしまうのです。

 

マインドフルネスを併用する

曝露反応妨害法の効果を高める方法としてマインドフルネスと呼ばれる技術が発展してきています。マインドフルネスとは「自分の心の状態を観察し続ける」ことです。これは、感情コントロールの一つの方法です。

強迫性障害の方は、「曝露反応妨害法をしている際、自分の心の状態を冷静に観察できない」のです。言い換えれば、「自分の心を観察できない状態=回避行動や強迫行為を行なっている状態」と言えます。

その為、ある程度、マインドフルネスについて学んでもらい、それを実践してもらうことになります。マインドフルネスは全ての強迫症状に対して行うわけではありませんが、特定の強迫症状に対してはマインドフルネスの技術が必須になってきます。

参考:強迫症への暴露儀式妨害法にマインドフルネスをどう組み合わせるか? より効果的な治療戦略

 

宿題(課題)を考える

認知行動療法では、カウンセリングから次のカウンセリングまでの間に、何らかの宿題を考えます。宿題がなければ、カウンセリングから次のカウンセリングの間に全く治療が進まないからです。

宿題と言っても、何時間もかかるようなものではなく、家に帰るまでにできること、10分位あればできるような簡単なものが選ばれます。例えば、「家に帰って、その服のままベッドに10分程寝てみる」などのような宿題を一緒に考えていきます。

 

評価をする

認知行動療法は、ある程度治療が進むと、治療が上手く行っているのかを調べます。強迫性障害の治療ではY-BOCSと呼ばれる尺度が最もよく用いられます。Y-BOCSは、薬の治験に用いられる評価方法になります。つまり、認知行動療法は薬物療法と同じ土俵で効果研究をされている治療方法になるのです。

もし、クライアントさん本人が「治療は上手くいっている」と言っても、Y-BOCSの数値が変化していなければ、治療が上手くいっていないと判断されるでしょう。しかし、そうすることで上手く行っていない原因が分かってくるのです。

Y-BOCS以外にも、強迫行為に使う時間や、水道代など色々なものが評価には用いられます。洗浄強迫にとって水道代が安くなるのはとても嬉しいことです。

 

家族の対応方法を考えていく・家族の協力を得る

強迫性障害の治療には、家族の関わりがとても大切になります。そして、巻き込み強迫にあっている場合は、家族からの相談で治療が始まる場合もあります。

家族からの相談の場合は、これらの認知行動療法の方法を先に家族に教えていくことになります。例えば、お母さんが本人と話し合って不安階層表を作ったり、曝露反応妨害法の課題を考えていくことになります。認知行動療法の専門家は、万人に対して専門家でなければいけませんが、家族の場合は、自分の子どもやパートナーに対して専門家であれば大丈夫です。その為、難しい理屈はある程度おいておいても大丈夫です。

また、本人とどうか関わるか?が最も重要なポイントになってきます。本人の治療へのモチベーションをどう引き出すか?という点を考えて、そのモチベーションを引き出すテクニックを場面ごとに練習していくことになります。

例えば、「確認して」「これ、綺麗?」などのような巻き込み強迫にどう対応していくか? 「曝露反応妨害法なんて嫌だ」「あんな方法で治るわけがない」と本人がわめいている時にどう関わるか?を具体的に考えていくことになります。

どうしても、「説得や力ずくで、言うことをきかそう」と思ってしまいますが、それでは治療は継続できない場合がほとんどです。一方で、放っておいても、治療に結びついていきません。

この辺りを整理して、戦略を考えていきます。

参考:強迫性障害の患者家族にできること:本人の状態によって戦略を変える

参考:強迫性障害(強迫症)の家族がしてしまっていること・できること(再編集)

 

最後に

強迫性障害の治療の概要についてまとめました。

しっかりと治療をすれば、2-3回のカウンセリングで改善していくことを感じます。上手くいけば、15-16回のカウンセリングで不自由なく日常生活が送れるようになるでしょう。

症状の理解から始まり、治療方法の理解、評価の方法、家族の対応などどれも大切のものばかりです。

しかし、もっとも大切なのは強迫性障害を克服して、自分の人生を取り戻すことです。

強迫性障害を治療することは、自分の人生を取り戻す手段であって、目的ではないのです。

 

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